鵺のなく頃に

アニメ・ゲーム・イベント・野球の感想を気ままに書き綴ります。

さくらの雲*スカアレットの恋 感想

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さくらの雲*スカアレットの恋、通称さくレット、クリアしました。
最高でした。傑作でした。ネタバレとか何も気にしないで感想を書き殴ります。
駄文長文注意警報。

雑感

 プレイ時間は30時間弱だと思います。
 いろんなところで「さくレットは2020年にやっておけ」というコメントを見かけておきながら、実際に始めたのは12/25という始末で案の定2020年にクリアすることが出来なかったのは至らぬところでしたが、それでも2020年の記憶が鮮明に残っているうちにこの作品に出会えたことはとても幸せでした。世の中が大変な状況になっている今だからこそ心に響き、そしてこれから胸に刻んでいかねばならないメッセージが込められているように感じました。

各ルートの感想

通常ルート

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 この作品は分岐選択肢無しの完全一本道のシナリオだったので、共通ルートと言うよりは通常ルートと言うべきでしょうか。
 主人公の風見司が2020年から100年前である1920年の大正時代にタイムスリップしてから、今作の敵である加藤大尉が本来1923年に起こるはずの関東大震災を何らかの方法で人為的に誘発して東京に騒乱が招かれるまでの話でした。終わってから振り返ると、年号を一切使わずに西暦のみで記されてあったのも大事な伏線でした。

 桜の木の下での所長との出会いから、蓮の依頼で蘭丸の捜索、チェリィ探偵事務所で共に暮らすようになって、遠子の依頼でまりもの探索、中森さんの依頼で怪盗ヘイストとの対峙、メリッサの依頼で幽霊対峙、と様々なキャラクターとの出会いや日常を繰り広げながら平和な日々を過ごしていたところで、突然の関東大震災の勃発、そして拳銃を片手に不敵な笑みを浮かべる遠子のCGでエンド。

 キャラクター紹介を中心にしながら最後に大きな謎を残して終わりました。また、途中にもいろいろな伏線やミスリードが隠されていて見事にしてやられましたよ。美術館で怪盗ヘイスト初めて対峙した場面、普段は遠子と一緒にいるはずのメリッサがその場にいなかったことなんて完璧なミスリードでしたね。最後の遠子が怪盗ヘイストを射殺するシーンでは、遠子とメリッサってそんな関係だったの・・・?と戦々恐々とした記憶があります。

遠子ルート

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 通常ルートでまさかの敵方の雰囲気を醸し出して終わったと思ったら、その直後が遠子ルートでした。個人的には、遠子が敵なんじゃないかと疑心暗鬼の状態でこの後ずっと過ごすことにならなくて助かりました。

 遠子ルートでは、遠子と怪盗ヘイストあらためリーメイの因縁が明かされ、さらにリーメイと加藤大尉との間にも過去に何かしらの繋がりがあったことが示されました。遠子と結ばれた司が大正時代に残って生きていくことをあっさり決めていたことに違和感が無いでは無かったですが、そこにもしっかりと意味が込められていたことは脱帽です。

 遠子は最初のお嬢様という設定から少し距離感を感じていましたが、予想以上に感情や表情が豊かだったり、年相応のおてんばっぷりを見せたりと親しみやすい性格で一気に好きになりました。普段のドレス姿もかわいいですが、私服のワンピースや制服のセーラー服姿も素敵でした。司から未来について聞く時のワクワクが止まらないような笑顔や咄嗟のアクシデントが起きた時の慌て顔や恥じらい、自分が犯罪に手を染めていることを自覚しながら司に対する恋心が大きくなっていたことの葛藤を乗り越えて告白をして返事を貰えた時の喜び、などなどこちらまで感情が伝わってきました。

蓮ルート

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 蓮は他の3人と違って特殊な事情や背景を抱えていないこともあって、あくまで大正時代に生きる普通の一般庶民の女の子との恋愛模様を描いた平和なルートでした。探偵事務所に持ち込まれた依頼も「バウムクーヘンの作成」「住み着いた野良犬の対応」「南極磁石と永久機関の捜索」と比較的穏便なものばかり。南極磁石と永久機関に関しては、これまた成田さんと加藤大尉に繋がるシナリオ的に重要な話も出てきましたが。

 バウムクーヘンについては純粋に新しい知識が得られて面白かったです。日本でバウムクーヘンが食べられるようになったのが大正時代で、それも捕虜のドイツ兵が広島で作り始めたのがきっかけという話。これだけに限った話ではなかったですが、作品の中で語られる大正時代の文化や歴史には実際の史実を元にしたものが多く、人物名や地名や美術品などに興味が出てきて調べて時間が過ぎてしまったことは数知れず。

 あと、伏倉さんが未来から飛んできたような描写があったのも蓮ルートでしたっけ。ちらっと意味深な発言をして去っていったので何かあるんだろうなとは思ってました。

 蓮ルートとはいえ、蓮と一緒に過ごしていた時間はあまり多くなかった印象です。それでも、上記CGでの「私に恋を、教えてくれますか?」の破壊力はヤバかった。途中まで司が未来人であるという事実を明かしていなかったこともあって、未来と大正の時代を超えた恋愛の奇跡と尊さを見ましたね。付き合ってからの蓮のドSっぷりは見た目のギャップと合わさって刺さりました。

メリッサルート

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 東京の中を歩き回ってきた前の2ルートとは打って変わって、メリッサルートの舞台は目的地不明の列車の中。閉鎖空間で起こる殺人事件はミステリー作品ではメジャーですね。オリエント急行の殺人は読んだことないですが。

 僕がメイドにそこまで惹かれないこともあって、メリッサにはあんまり魅力を感じていませんでした。・・・最後に自身の秘密について明かされるその瞬間までは。

 メリッサルートの最終盤から所長ルートにかけてが、さくレットは本当に面白かったです。OPのインストが流れ、メリッサから最後の依頼が告げられ、アララギ視点の外伝を経て、最後の枝に渡る流れはこれ以上なく心が踊りました。詳しくは所長ルートで。

 メリッサルートで印象に残っていることといえば、柳楽さんが殺人に手を染めてしまったことですね。正義感に燃える刑事さんポジションのキャラは作品終盤で命を落とす流れになることが多いのですが(カオスヘッドネウロ)、まさか犯人側に回るとは思いもしませんでした。心の底から闇に落ちてしまったわけではなく、その場の成り行きで致し方なく殺ってしまった事情もありましたが、ちょっとした事件の掛け違えでどんな未来を歩むかが変わってしまうというのはなるほどなと思いました。ただでさえ、時間移動もののSF作品ではバタフライエフェクトだったりパラドックスだったりと関係が深いのもあって。

所長ルート

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 さくらの雲*スカアレットの恋という作品の解決編であり、この作品のすべてが込められていました。これまでのルートも個人的には十分に楽しめていましたが、それらを遥かに凌駕するほどの熱量と感動をいただきました。

 所長ルートでの2度の解決編が作品中での山場であり真骨頂でした。

 1度目の解決編は司の正体について。左腕が機械で切り離されているCGを最初に見た時は息が止まり、脳天から電撃で撃ち抜かれたような感覚でした。時々閃光が走るようなフラッシュバックのシーンがあったり、エッチシーンでも頑なに服を着たままで手袋を外さなかったりと確かに伏線と思えるような要素は散りばめられていました。
 それに2020年が決して平和な年ではなく、第三次世界大戦が勃発している"桜雲2年"であるということ。司のお母さんの悲鳴の回想シーンもあったので、こっちはなんとなく察していました。現実の2020年も平穏な時代ではありませんでしたが、それ以上の凄惨な時代を過ごしてきた司が未来に帰りたくなく大正時代に残りたいと考えるのは想像に難くありません。
 しかし、そのような司に対して、それでもお前は未来に帰るべきだと告げる所長。いや、かっこよすぎです。これまでも随所に見られていた所長の格好良さを改めて見せつけられました。所長の何が良いって、確固たる信念を持ち、一度決めたことは貫き通すこと。多少お金にがめつかったり、頓珍漢な推理を繰り広げたりすることはあるけれど、それ以上に他人のことを思いやることができ、正しい道へ導くことができること。とても魅力的で素敵なキャラクターでした。所長が司のことをただの部下以上に大切に想っていることは他のルートでも描かれていましたが、そちらではあくまで保護者として。本ルートでようやく恋人として司のパートナーに、お互いを支え合う関係になったのを見て感無量でした。
 司は探偵である所長の右腕に、所長は黒死病で失われた司の左腕に、右腕左腕という喩えは定番ですが何度見ても良いものですね。

 2回目の解決編は加藤大尉との最終決戦において。加藤大尉が未来人であるのは物語中盤から明らかにされていましたが、最後により深く踏み込んできました。加藤大尉が昔使っていた"支倉"という偽名が"伏倉"に似てるなあと血縁関係を疑ってはいましたが、もっとストレートな繋がりでした。作中で取り上げられた「親殺しのパラドックス」や「シュレディンガーの猫」が最後に意味を為すという展開にも唸りました。小夜子さんとのプロポーズの話がどのルートでも出てきていたのが最後の最後に重要な伏線として回収されるとは。
 伏倉さんが小夜子さんと結ばれる可能性が無くなるという事実が観測され、子孫の加藤大尉が生まれる未来が消滅し、加藤大尉はどの時代にも存在できなくなる。綺麗なまとめ方だったと思います。司も消えないのはおかしいという意見もありますが、タイムマシン理論が生み出されるという可能性はまだ完全には消えてないのではと考えています。

 2度の解決編を経た先に待っていたのは、最後の別れと新たな出会い。そしてグランドエンディング。
 出会いの櫻の木の下でお互いの帽子を交換して最後の想いと別れを告げるあの場面とイラストですべてがやられました。久しぶりに目から涙が止まりませんでした。そしてマリィの笑顔と所長の手紙、読み上げられる言葉のひとことひとことに心が揺さぶられて涙が搾り取られました。
 最期まで司と所長が一緒に過ごす姿が見たかったという気持ちも少なからずあります。それでも、他の3人のルートでは大正に残る選択をする司が、所長ルートでは未来に帰る選択をしたということにこそ意味があると思うし、所長との離別を乗り越えてこそのマリィとの出会い、エンディングで語られる各キャラクターの大正時代での奮闘の様子が心に染み渡るのだと思います。クリア後にタイトル画面に戻ったときの余韻と喪失感は今後も忘れないでしょう。

その他

各ルート感想で既にいろいろ語り尽くした気がしますが、細かい要素について最後に感想を書きたいと思います。

シナリオ

 さくレットの評判の良さはプレイ前から知っていたましたが、期待を見事に超えてくれました。
 最後の解決編に持っていくまでの伏線の張り巡らせ方や怒涛の回収の手際はお見事。
また、作中に登場する大正時代の世界観や舞台設定、史実や文化財の大半が実際に現実に存在するものであるということには驚きが隠せません。冬茜トムさんの実力を思い知らされました。さくレットは大正文化をモチーフにしており、過去作のアメグレは西洋文化を参考にしているらしいので、今度アメグレをプレイする時はそこも楽しみにしています。

 作中で重要な要素であり、タイトル回収にもなっている"桜雲"。令和が万葉集から引用されており、同じ和歌集である古今和歌集から引用される未来があったとしたら桜雲という元号になっていたかもしれないですね。桜雲である必然性はあまり読み取れなかったですが、なんでもかんでも必然性を求めすぎるのは良くないと自覚しているので自重しておきます。

 シナリオの進み方に分岐選択肢が無くて一本道だったのはこれで良かったです。キャラゲーなら自分が好きなヒロインから攻略したいですけど、シナリオに重きを置いた作品なら推奨順に攻略したいですからね。別に調べてもいいんですけどネタバレに遭う可能性があるし、最初から一本道にしてくれるならそれに越したことはないです。
特に今作ならメリッサルートをいつやるかで作品に対する印象が大きく左右されるでしょうからね。

キャラクター

 ヒロイン4人に加えて、様々なサブキャラクターが登場しましたが、どのキャラクターも個性と役割を持っていて凄いと思いました(小並感)。しかも同じキャラクターでもルートによって立ち位置が変わってしまうというシナリオの流れには感服しました。

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 所長が最後に何度か語っていましたが、人間や人生は単純なものではないということ。何かのきっかけひとつでこれから歩む道先が正反対に変わってしまうこともあるでしょうし、大切な出会いのおかげで命を救われることもあるでしょう。それを見事に表現されていました。

 メインヒロイン4人の中では、やっぱり所長が1番好きです。さくレットを最後まで遊んだ人は誰でも所長に惹かれるのでは。他のルートでも司と共に過ごしていた時間は長いし、どんな時でも司のことを大切に想っているのが伝わってきて、もうたまらないです。時折見せるギャグ要素も良いアクセントでした。

音楽・イラスト

 主題歌の桜欄ロマンシア、エンディングの比翼のさくらがとても印象的です。和風ロックの曲調が好きなので桜欄ロマンシアはどストライクでした。桜欄ロマンシアのインストは作中でも山場となるシーンで流れていて、聴くと反射的にテンションが昂ぶるようになりました。
 イラストに関しては、梱枝りこ先生の絵はこれまであんまり琴線に触れることは無かったのですが、今作ではビビッと惹かれました。特に所長と蓮のキャラデザはめっちゃ好きです。りこ先生は洋装のイメージが強かったですが、和装のほうが僕の好みに合ってました。あと全体的に何か絵のバランスが良かったというか。このあたりは上手く言語化出来ないですが。

総評

 シナリオ・世界観・キャラクター・音楽・イラスト、すべてにおいてクオリティが高い素晴らしい作品でした。
 あっという間に大正浪漫の雰囲気に惹き込まれ、非常に緻密で美しいレトロな街並みや建物の背景に魅了され、和気藹々とした日常の裏で暗躍する影との闘いに胸が鷲掴みにされました。

 2020年の終わりから2021年の始まりにかけて、この作品に出会えたことはとても幸せでした。
 2021年も良い作品に出逢えることを楽しみにしています。